本書の方向性として、まずは、徹底的に形を整えようという姿勢が読み取れる。例えば、「冒頭の言葉の型」「締めの言葉の型」というようにパターン化されていたり、「リアルタイム性」「当事者性」を出すためにこういう言葉を使う、というようにきめ細かくやり方が解説してある。その他、話すときの手の位置や目線まで配慮している。筆者をこれらを「戦略」と呼んでいる。
準備をした言葉が「準備したように聞こえる」のは、それも技術不足です。
引用:本書
この言葉からも、本書の徹底ぶりが分かる。
こういった多くのスキルを解説するにあたって、大切なのはスキルかマインドか、序盤で考え方をはっきりさせている。多くの人が疑問に思うであろうことをしっかりと言語化してある。それがないまま、なんとなく始まるのではなく、最初に筆者の考えを最初に明らかにしていることで、本書の方向性がつかめる。
また、話し方に重要な要素が整理された図が序盤に出てくるので、話の全体像が最初につかめる。自己啓発本の中には、あれも重要、これも重要といった具合で話が進み、読み終わった後に、「結局どうすればいいの?」となるようなものも多い。一方で、本書では最初に何が重要かの結論があり、その後に詳細の説明に入っているので、やればいいことが明確だ。
話し方というのは答えのない分野で、何が話し方の良し悪しを支配しているのか?を端的に表現するのは非常に難しいと思うが、本書ではその1つの答えを確立していると言えるだろう。
上記のような感想を持ったが、本書では気になる点も多かった。
以下は、本書を読んでいて気になった点だ。全体的に、一生懸命読まないと、内容がスッと入ってこない不思議な感覚があった。それは以下のような事が関係しているのではないかと思う。
⚫︎原因や症状について触れられていない
普通、何だかのノウハウを説く本は、「こんな悩みありませんか?」というように、解決すべき課題を提示する。もしくは、悪い例を挙げたり、どういう症状なのか?、原因はどこにあるのか?について述べられる。そして、それを改善する方法を提案するのが一般的である。それによって目的、目標がはっきりする。
しかし、本書にはそういった展開がないまま話し方の説明が始まる。そういった前置き無しに、「これが話し方です」というのは少々強引ではないだろうか。
●「戦略」という言葉がノイズに感じられる
本書では「戦略」という言葉が多用されている。本書で言う戦略とは、「話し方の工夫」のことだと思う。戦略という言葉を使う事がプラスに働けばいいのだが、戦略という言葉が出てくる事で、話すということとは別のイメージを持ってしまう。その状態から、自分の頭を話すことに戻すのは負担がかかると感じた。
例えば、「話に戦略を立てることを考えるとき、大前提として・・・」というような文章があるが、こういう文章がスッと頭に入ってこない。何故かと言うと、直接の目的を言ってないからだと思う。「自分の話をよく理解してもらうには・・」とかなら、負担なく頭に入ってくる。
⚫︎重要なワードが曖昧
本書では、話し方において重要なのは、「言葉」と「音声」としている。しかしながら、この「言葉」というワードがどうも頭にスッと入ってこない。本書で「言葉」とは、「話す内容・話の構成」を指しているが、別のイメージを持ってしまう。「言葉」というワードは、他のワードと組み合わせで使うと聞きなれた表現となる。例えば、以下のように使われる。
・言葉をかける
・言葉にする
・言葉の選び方
・言葉にできない
・言葉使い
・言葉を信じる
・言葉を発する
一方で単体で使われると、何を指しているのかぼやっとしてしまう。確かに、話す内容や話の構成も「言葉」ではあるが、「言葉が重要」といっても具体的なイメージが沸かないと思う。
⚫︎レイアウトに違和感を覚える箇所がある
各部の先頭にイントロのようなページが1ページ設けられている。しかしながら、縦書きと横書きが混ざっていて読みにくい。しかも、縦書き部分の改行が不規則かつ頻繁なため読みにくい。この部分は各部で説明する事の全体像を表す部分だけに、パッと見ただけで分かるようにしたいところだ。
⚫︎表題と中身がずれている箇所がある
話し方に重要な3つの原則の中に、「対象者を分析する」「話し言葉を意識する」というものがある。しかしながら、これらは原則というよりは、やるべきことだ。原則とは、いわば守るべき決まりで、以下のように表現されるものだと思う。
<原則の例>
・30日以内に手続きを行う
・口頭での発注は行わない
しかも、分析や意識すること自体より、対象者を分析して「対象者が理解できる言葉を使う」というように、分析や意識した結果何をするかが重要ではないかと思う。これが、それほど重要でない箇所ならともかく、話し方の原則として位置づけられているので、ここは表現に細心の注意が必要だと思う。
⚫︎並列されている要素の形が一致していない箇所がある
以下のように、伝えたいメッセージを作る手順を表している箇所がある。
【コアメッセージを作るための型】
①目的設定・対象者分析
②対象者に伝えたい事の書き出し
③一番伝えたいコアメッセージを一つ選択する
これを見ると、①は名詞、②は名詞句、③は文というように、表現がそれぞれ違う。そのため、パッと見て頭に入ってきにくい。例えば、下のように表現の仕方を合わせると、頭に入ってきやすいと思う。
①目的設定と対象者分析をする
②対象者に伝えたい事を書き出す
③一番伝えたいコアメッセージを一つ選択する
⚫︎メンタルモデルが崩れる箇所がある
一般的に、文章は読む側の予想通りに展開される方が読みやすい。例えば、「ポイントは3つあります」と書いてあったら、「1つめのポイントは・・」「2つめのポイントは・・」「3つめのポイントは・・」というように展開されると予想する。これが予想通りに展開されるとスムーズに読めるのだが、本書では微妙にずれている箇所が多かった。以下に、その例を挙げてみる。
<例>
・3つの基本原則がある→「原則のひとつめは・・」「原則のふたつめは・・」「基本原則の最後は・・」
・工夫をいくつか紹介→「まずは・・」「次に・・」「3つめは・・」
・3つのポイントがある→「ひとつめは・・」「○〇も大切です」「続いて・・」
・3つの方法をおすすめしている→「ひとつめは・・」「続いて・・」「さらにその応用が」
これらはよく読めば、問題なく理解できるのだが、油断すると何番目の項目の説明かを見失ってしまう。